
この春小学校に入学する息子に手作りの本革ランドセルを制作しました。
革職人として息子のランドセルはぜひ自分の手で作ってあげたい。彼が生まれた時から抱いていた想いを、いよいよ入学が近づいてきたタイミングで形にしようと始まったこの挑戦。日々の業務の合間に少しずつ形にしていきました。
これまでオーダー制作で様々な鞄は制作してきたのですが、ランドセルの制作は初めて。手始めに市販のランドセルを分解してみる所から始めました。
設計図はある程度イメージできても細かい芯材の仕込みや強度の持たせ方などのノウハウはなかったのですが、さすがランドセルメーカーの物は長年の蓄積による細かい部分までのケアの仕方が参考になります。
ランドセル作りのコンセプトは、「できるだけ“本物”に触れて欲しい。」
上質な革素材の手触りや雰囲気、年月と共に味わい深く変化していく様を感じてもらいながら、様々な物事の“本質”に“気付ける”感覚を持つきっかけの一つとなってくれたら。
と、贅沢にイタリア製バケッタレザーでオイルがたっぷり入った革を使い、一からデザイン→設計→制作まで全て手作業でオリジナルのランドセルが完成しました。
デザイン〜制作までの流れは当方のフルオーダー制作の流れと同じです。
デザインテーマは“ミリタリー”
通常は総カブセになっているランドセルの蓋の部分から、できるだけ軽くするため半カブセにして、顔となる正面に軍服のエポーレット(肩章)をイメージしたデザインを施しています。
ボタンも普通の物だと革の印象に負けてしまうので、フランスのアンティークボタンを採用しています。約100年程前の物で、年代的にはおそらくベークライト(プラスチックの前身)の物にしています。
本体の色は黒。当アトリエで日頃から使っているバケッタレザーの“黒”は、他の革と比べて深みがありうっとりする黒です。その深みを活かすようステッチや金具も黒に統一してシックに仕上げる想定です。
デザインがある程度固まったら次はパターン(型紙)設計です。
床革というサンプル制作用の革(洋服作りでいうシーチングのような素材)を使ってデザインを立体にするのと、製図を同時進行していきます。
立体にする事でサイズバランスや細かいパーツの位置取りがしやすくなります。
修正・調整を繰り返しながら、鞄作りの命となるパターンを引いていきます。ランドセルは細かい仕込みも多いのでパーツ数も多くなりました。
パターンを引いたらいよいよ本番です。
仕込みが多い部分もあるので各セクション毎に制作していき、最後にそれらを組み立てていきます。
内装も全て革仕様。ピッグスエードで暖かみと高級感がある仕立てになっています。
また、物を大切にする気持ちも持ってもらえたらと、息子と一緒に名前入れや簡単な作業をしています。
ランドセルという“物”だけでなく、それを自分の手で手掛けるという“体験”を通じて何かを学んでほしいという想いで楽しく制作しました。
最後に細かな金具などを取り付けて完成。
このランドセルと共に6年間、たくさん笑って、泣いて、怒ったり悲しんだり喜んだりと色んな経験を積み重ねてくれる事を願って。
親の想いと息子との絆が形になった世界に1つだけの贈り物です。
〈素材〉ミネルバBOX,リスシオ※イタリア製フルベジタブルタンニンレザー(バケッタ製法)
〈サイズ〉
約W260×H340×D160
〈重量〉
約1.4〜1.5kg
photo:タナカメラさん(一部Hasの資料写真)
※Hasアトリエ&ギャラリーと同ビル6Fにあるスタジオ。日常のワンシーンや光のとり方が素敵なカメラマンさんです。撮影頂きありがとうございました。
https://www.tanacamerarara.com/